コッペパン


「あれはほんと、おいしいんだよねぇ。」


夕暮れ時、仕事帰りの電車の中で、

50代くらいの男性が職場の部下らしき人にそう語っているのが耳に入ってきた。

人に埋もれて、その男性の顔は見えなかったけれど

その一言だけで、顔が緩んで記憶の味覚に浸っているその人が目に浮かぶようだった。


たった一言だけど、その人が発したのはきっと声だけじゃない。

それを食べながら過ごした日々の思い出も纏っていた。


じんわりあたたかく、赤の他人の私なんかにも染み入るような

そんな一言だった。


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